vol.13

フリーペーパー花鳥風月

INTERVIEW 1

ワクワクが発信源、自然が繋ぐ創造力 
-RIVENDEL(リベンデル)代表 熊澤 弘之 さん


 

INTERVIEW 2

思いを紡いで形にする
-『わたわたの会』

代表 大和 真由美 さん

 

自然素材住宅のコラム

光と風と共生する家

INTERVIEW 1 ワクワクが発信源、自然が繋ぐ創造力

リベンデル

大人はいつから夢見る気持ちが薄れていったのでしょう。
子供の頃は紙と鉛筆さえあれば、どんな夢でも描けたのに。
いつしか、それがただのメモ帳と筆記用具にしか見えなくなる。
大人子供関係なく、明日に夢を思い描く気持ちは生きる原動力になりえます。
 

現代を生きる人の暮らしにワクワクする自由な創造性を与えてくれる場所、『RIVENDEL(リベンデル)』。貸し農園とフリースペースを基に、そんなワクワクを生み出しています。
リベンデル代表の熊澤弘之さん、奥様の裕美子さんにお話を伺ってきました。
 

リベンデル

茅ヶ崎の住宅街。スーパー、一戸建て家屋や高層マンションが混在する風景の中に突然あらわれる緑の空間。そこが今回訪れた『リベンデル』です。リベンデルには野菜の農場、ビオトープや果樹園など自然の息吹を感じる場所があります。農場の一部は会員制の貸し農園スペースになっていて、会員が利用できる浴室、釜戸、キッチン、休憩所といった生活スペースもあります。自分の別荘感覚で手ぶらで来てもゆっくりと自然を感じて過ごせるような空間です。また、フリースペースでは『自然と暮らす』をテーマに『暮らしの教室』など暮らしをより豊かに創造できるような情報を一般向けに発信しています。

幸せな暮らし

リベンデル

「日々うまくいかない事、例えば仕事で失敗したとしても好きなことや夢中になれることがあれば、『暮らし』は幸せなんじゃないか。心の中から力が沸いてくる気持ちで何かに向かっている時、それはその人がその人自身である時」とリベンデル代表の弘之さんはおっしゃいます。『好きだからやりたい』と沸き上がってくる気持ちは、生きる上での大切な原動力。大人は現実を知るたびに好きなことで「夢」を見ることをしなくなります。しかし、現実も見方を変えれば『好き』なことで夢見ることができる。そんな発見をしてもらいたくて、リベンデルでは「暮らしの教室」を開催しています。『暮らしの教室』とはフロントランナー(第一線で活躍している人)を呼んで話を聞く場。「フロントランナーの人って自分を持っているじゃないですか。色んな人の価値観を知ることも大事。同じものを見ていても見方が全然違う。そこから学べることがあります」。フロントランナーの創造性は私たちの視野も広げてくれます。『自分でも何かやってみたい』という思いを持てたら、自分の人生の可能性も広がっていきます。

リベンデル

『暮らし』の提案は農場を通しても行われています。
農場では野菜を栽培するのはもちろん、焚き火をしたり、お味噌を作ったり、働き方やイベント、仕事をみんなで考えたりと… 暮らしを自分達で手作りする場として利用されています。「暮らしに時間をかけるっていうのは豊かさとイコールに近いと思う」開かれた農園で人が集い、暮らしを創造する。
人と自然が生み出す日々の幸せがそこにはありました。

自分なりの人生づくり

リベンデル

『農』というものをテーマにリベンデルを始めたキッカケは弘之さんが25歳の時。当時大手の飲料メーカーに勤めていました。周りの空気に乗って安定した大手の企業に就職し東京で現代的な生活を送る中、「自分はひたすら飲料をつくるために生まれてきたわけじゃない」という感覚に。「このまま一生を送っていいんだろうか?誰かが決めた幸せな人生ではなくて、人にはその人なりの幸せな人生があるんじゃないか」という思いが芽生えました。それでは「自分って何だろう。心が通ってこれをやっている時はご飯もいらないみたいな時はどんな時だろう。でも生計は立てていかなければいけないし」という葛藤を持ちながら、自分なりの生き方探しがスタート。

リベンデル

その最中出会ったのが“BeGoodCafe“というNPO。若者にも楽しめる環境イベントをしている団体で、その活動に興味を持った弘之さんは、NPOが主催する『愛・地球博』の出展を手伝うことに。出展は食の循環を体感するレストラン。会場内の畑で野菜を作り、育った野菜を料理に使う。さらにそこで出た野菜くずや水を肥料として畑に戻すというシステム。「野菜くずはミミズを使って肥料にしていたのですが、それを見たお客さんが『頭ではなんとなく解っていたけど、こうやって体験することで子供たちもすごく喜んでたし、マンションに住んでいるけど家でもミミズを飼います。マンションでもできることをします』という反響があったんです」。現代の生活の中では自然と食の循環を体感することが難しくなっています。

リベンデル

私たちの基となる大切な食、自然からつくり出す『食』を体験するによって楽しくなる暮らし。弘之さんは今の時代でも暮らしの身近に『自然に生かされている』と体感できる場所が必要だと考えました。「暮らしに時間をかけることと豊かさはイコールに近い。野菜嫌いだった子供が、野菜を育てるところから関わっていくと『わー、みんなでつくった野菜、おいしい』と食のありがたさがわかったり」。衣食住… 暮らしの中でそんな感動が増えれば、充実した時間も増える。そんな幸せが生まれる場所が創れたら…。それは生き方を根本から考えた弘之さんの「食」、「暮らし方」の形。

リベンデル

更に食を根本から考えた時、「農薬を使わない。虫が発生することには意味があって、例えば肥料のやりすぎだったり… だから薬をやって虫を殺しても解決にはならず、根本を修正しないと意味がない。農薬を使わないでその土地で採れた種を繋いでいく方が、丈夫な野菜が何もしないでも採れる。深い所から考えると、繋がって永く続くことって道理にかなってる」。弘之さんはこのような考えを元に、「今の時代でも暮らしの身近に『自然に生かされている』と感じながら食がつくれ、その人なりの充実した暮らしを創造できる。更にそれを永続的に続けられる場所が必要だ」と思い描いていました。同時期、農業を営んでいた祖父の土地をさら地にする話が飛び込んできて、「このままでは大切なものが無くなってしまう、チャレンジをするのは今しかない」。弘之さんは自然を残した体験型の貸し農園『リベンデル』を茅ヶ崎の地で立ち上げることに決めました。

農業だけどいろんな形があってもいい

リベンデル

「農業なんだけどいろんな形があってもいいんじゃないか」弘之さんは農業に興味がない人にも響く、農業の固定概念を超えた表現を発信しています。農業は自然からの創造物。自然からの創造はその多様性と同じく、多岐に派生する可能性を持っています。その可能性を基に今までにないイベントが農場で誕生しています。『地球に染まろう泥温泉』は思う存分泥まみれになって自然をあるがままに楽しむ企画。遊びの中で泥染めにした衣服はリベンデルで展示されました。それを聞いた茅ヶ崎市美術館より、申し出があり、循環、繋がりをテーマとした『くるくるサイクル展』を開催。
『くるくるサイクル展』は私たちが共に生きている環境をアートの力でより豊かに、よりわくわくさせ、より思いやりのある場所にするにはどうするかを子供たちが考え、作品として表現するコラボレーション展。自然とふれあい自由に楽しく創造することで、自分と世界との繋がりを体感し、表現する場になりました。循環する自然からの創造は衣、食、アート、私たちの未来までも繋げていきます。「自分の考え方が絶対ではない。視野を広く、頭が柔らかい自分でありたいと思っています」というのが弘之さんのスタンス。創造性のある生き方には色んな形を受けとめられる方がおもしろい。弘之さんのお話を聞いていると、人生の自由な可能性を感じます。

女性の生き方の自由

リベンデル

女性が生き生き活動しているのもリベンデルの特徴。フリースペースで月1回「ノーボーダーカフェ」という子育て中の女性限定イベントがあります。『子育て中のママでも社会で能力を発揮でき、子供連れでもリラックスして楽しめる、枠を超えた自由がある場所』という意味でノーボーダーというネーミング。出店するのも子育て中のママ、お客さんもママ。現代の子育て中のママは子供連れでは出歩く場所も少なく、働く場所も制限され、社会から孤立しがちです。そんなママでも小さく商いを始めることができるのがノーボーダーカフェ。お客さんとして子供連れで来ても、周りはみんなママなので安心して楽しめます。ノーボーダーカフェは、奥様の裕美子さんが主催するイベント。女性の目線で自由な子育て、自由な女性の生き方を提案されています。その基盤となる考え方は大学時代の発展途上国への渡航。そこで見た貧しいけど生き生きとした子供の姿。それに比べて日本の子供はゲームばかり。発展途上の国より児童虐待や自殺の多い日本。人にとって子供にとっての「幸せ」って与えるだけではないのでは?という思いに。自然の中で想像力豊かに遊びながら「子供たちに手足広げて、思いっきり自分を広げてほしい」という願いから「生きる力を楽しむキャンプ」を開催しています。

リベンデル

独立心、協調性、我慢強さ、感謝する心、挑戦する力をキャンプを通して育んでいます。
裕美子さんが発展途上の国を見てきて、湧き上がった思いがあります。それは貧困で勉学ができない子供達へのチャリティ活動です。「子育てと仕事がひと段落ついた後、将来的には形にしていきたい」という夢を持っています。
女性でも社会で自由に発想し、創造していける場づくり。それは豊かで生き生きとした子育て、家庭、社会づくりにも繋がっていきます。

次世代への橋渡し

リベンデル

次世代に繋げていくもの。「そこに暮らしている人が心地よく、楽しく生きていけるような… 仕事だったり、住環境だったり、場所だったり、何でもいいですけど一つでも多く増やしたり続くようにしていきたい」と弘之さんは考えています。
『木守りプロジェクト』がリベンデルで今年始まります。『木守り』とは千利休の逸話。来年もよく実るようにという祈りをこめて、 わざと木に一つだけ残しておくこと。残した果実は他の生き物のためのもの。『木守りプロジェクト』は食べられる木を植え、そこに暮らす100年後の全ての生き物の住処となる共存の森をつくり繋げる活動。「今の便利な世の中も先人の人が命がけで作り上げた世界。そしたら僕は先の人々に何ができるか残せるか、僕ができることを今やろうと思う」。

リベンデル

『暮らし』という人の根っこから発生する欲求は創造力の源。自分の人生を自ら自由に創造し楽しい未来を思い描くこと、それは誰しもが与えられた自由。けれどいつの間にか人任せになっていた自分の暮らし方。お金で出来上がったものを買うだけの与えられた生活より、自然の恵みを体感し、自ら沸き上がる創造力で手作りする生活。それは自分の人生を自然界同様に多様に広げる可能性を持っています。
自主性を伸ばす『寺子屋構想』。死に方を考えて、生き方を考える『30代から始める遺書講座の構想』など、新たな暮らし方の構想を話すとき、熊澤さんご夫妻はとても楽しそう。それは自分の人生を本気で楽しむ姿に見えました。「人がここに関わる事で暮らしが変わっていったり、有機的に人がつながり、事が始まっていくことを目の当たりにするとワクワクします」と弘之さん。循環する自然の摂理に根ざした創造性は人、もの、空間、人生、未来をも繋いでいきます。次世代を本当の意味で豊かにするのは、今の時代の衣、食、住、遊び、教育、死に方… 『人として生きること』と客観的に向き合い、『人として生きること』をその人自身が本気で楽しみ創造することで生まれるのかもしれません。
 

INTERVIEW 2 思いを紡いで形にする

 

手編みのマフラーや、日曜大工の木工品、温かい手作りの夕飯。
手作りの中にある優しさ、嬉しさ、温かさ…それは人にとって、ものづくり精神の原点、
思いは形になり人から人へ。ものを通して心を繋ぎ伝えていきます。
そんな手作りの温かさを感じるワークショップがあります。


わたわたの会

相模原市の旧藤野地区にある自然豊かな場所で、
農薬を使用せず在来種の種から棉を作り、糸を紡ぎ、織り、染め、編むワークショップ
を行っている「わたわたの会」があります。
ワークショップは、生活の中でできる『棉栽培からのものづくり』を学び、
棉の栽培を通して自然の恵みを感じ、自ら衣をつくる体験。
「わたわたの会」代表である大和真由美さんに
ワークショップへの思いを伺ってきました。

わたわたの会無形の家

昔の日本ではごく普通に家庭で糸紡ぎをしていました。子供と一緒に遊びながら綿と種を分けたり、綿から糸を紡ぎ、家族を思いながら布を織っていました。家族を病気から守る目的で衣類を染色することも日々の習慣でした。「服薬」という言葉は元々薬を身に付けたり、衣服に縫い込んだりすることで生まれた言葉です。
皮膚は人の体全体を包む臓器であり、人間の臓器の中で最も大きいものです。その皮膚を覆うのが衣服。そんな身近で重要な衣のことをもう一度見つめ直すため、「わたわたの会」のワークショップに参加してきました。
 

人の心が変化するワークショップ

わたわたの会 染め

ワークショップは全5回(5回の内容は10㌻に記載)。私が参加したワークショップは「染め」の回でした。ワークショップの流れは、参加者が近況を発表し全員で共有~棉畑の草刈~お昼ご飯~草木染め講座~機織りや糸紡ぎの作業~今日の感想を発表し全員で共有という工程。草木染めの講座では、わたわたの会スタッフの山崎さんが草木染めをする意味とそのやり方を教えてくださいました。山崎さんは自然豊かな藤野に住み、自給自足の生活をしている整体師さん。健康に暮らすために、先人の知恵である草木染めを日々の生活に取り入れています。草木染めに利用できるものは玉ねぎの皮や小豆のゆで汁など意外と身近にもあるもの、料理のついでに作業できます。健康に暮らすには予防が大切。それは日常の暮らし方にあり、日々身に付けている衣を草木染めすることからもできることなのだと解りました。私達を守ってくれる草木染めの色は生き物の温かくやさしい色に感じました。

わたわたの会 草木染め

紡いだ糸で何をつくるかは本人次第というのがわたわたの会のスタイル、スタッフは技術面でサポートします。それは個人が持つ、ものづくりの思いを大切にしてのことです。豊かな自然と触れ合いながらものづくりをする中、誰のために何をつくるのか、家族の話、藤野の好きなところの話など自然と参加者同士の会話が弾みます。時間を過ごす内に、目的を共にする一体感が生まれたように感じました。

わたわたの会

朝から夕方までのワークショップに参加した感想は『人の心が変わる』体験だったということ。最初に行われた参加者同士の近況を発表。その多くは「忙しく て…」や「~しないといけなくて…」という時間に追われたり、義務感を感じるコメントでした。それがワークショップ体験後の感想では「ゆったりとした時間 が楽しかった」や「居心地がよく都会に帰りたくない」など、自分主体で楽しく時間を過ごし、自らの感情から沸き出たコメントへ変化していました。現代の生 活は、自ら衣食住をつくらない代わりに、分業された大きな社会システムの中で衣食住がつくられています。人は社会の一員として自分に与えられた役割を果たすという形で日々を生きるようになりました。このシステムによって効率的な大量生産ができるようになりましたが、代わりに誰のためか見えづらい中で効率よく仕事する、『効率義務』を負うことになります。働いた代償はお金という形。義務感に追われ、自分がやったことで生まれる人の喜びを感じにくくなったのかもしれません。豊かな自然の恵みから自分のために自ら衣を創り出す達成感、大自然が作り出すゆったりとした時間の中、自然の大きな循環に抱かれる体験。それは薄れていってしまった人本来の生き方や生きがいを感じるものでした。

わたわたの会 手紡ぎ糸

「ワークショップ最終回の時、最初に行う近況発表で『今回で最後なんてさびしい』という感想が多かったけれど、最後の感想発表では『また会えるわね、またね』という感想に変わっていたの」と大和さん。それは、何かしらの形でこれから先も参加者の中で続いていくから。自分でも棉の栽培からものづくりが日常生活の中で可能だという実感があったり、大和さんの自宅解放で今後も藤野と手仕事で繋がるチャンスがあるというのもあり、今後も自らの暮らしに根付き続いていく。ワークショップ終了後も大きな自然の循環と共に暮らしていくことができる安心感からの『またね』の言葉になったように思います。

自給する衣が循環する形

わたわたの会 和綿

 「わたわたの会」結成は3人が偶然同時期に棉栽培を始めたことからでした。
代表の大和さんが棉栽培をするキッカケは生活の中で利用していた手紡ぎの布製品から。服飾の仕事をしていた大和さん。ご自身の体調不良から衣食住の改善へ関心を持ち、専門分野である「衣」でも手紡ぎの布と出会うことになりました。手紡ぎの布で体を洗うことで湿疹改善などの体質改善ができたり、生活の色んなシーンで手紡ぎの布が活用できることなど、その魅力や可能性に魅かれていきます。手紡ぎの布を愛用し、その成り立ちに興味を持っていたところ、その製造元のご厚意で種を分けてもらえることに。その時大和さんが考えたのは「棉を種から栽培し、布にまで仕立てる。その手仕事を通して、主婦も社会の循環に参加できるのでは?」ということでした。子供を育てているため会社に勤める環境にない主婦も、手仕事を通して循環する社会との接点を持つことができます。主婦が空いた時間に棉を共同で栽培し、手紡ぎで製品にして社会に還元する。育児や家事の合間に在宅で服飾の仕事をしていた大和さん。子育てしながらも社会との接点をもつことで、自分の生きがいを感じていたことからの構想でした。

わたわたの会

1年目は有機栽培のプロである須藤さんの畑で棉を栽培し、種をつくるところまで経験しました。その畑で偶然同時期に在来種の棉を無農薬で栽培する末村さんと柴原さんに出会います。それぞれが棉栽培に行き着いた道のりには衣を取り巻く様々な背景が関係していました。
農作物の中でもっとも農薬を使用している棉栽培(作物面積に対しての農薬使用量の比率が最も高い)。発展途上国生産者の農薬の購入による借金、それを苦にした自殺。末村さんは大量生産大量消費社会の持続性に限界を感じていました。さらに、ライターとして医学の情報を得るうちに、人と自然の繋がり(自然環境と人体の相似性、調和性)を学びます。自然の摂理に合った人の生き方、その楽しさの体感を求めて棉栽培を始めました。柴原さんはガンジーの思想から衣自給の象徴である糸紡ぎに関心があり、棉栽培を始めました。

和綿 わたわたの会

違う発想から綿に行き着き、別々のルートから種を入手し、同時期に同じ場所で棉を栽培していた偶然。その偶然から一緒に畑を管理し、活動も共にすることにしました。それが「わたわたの会」発足のキッカケです。2年目は栽培から糸を紡ぐところまで実践。実際やってみて、布製品を商品化するには規模をもっと大きくする必要性と商品として売るには大変高価なものになってしまうという現実にぶつかります。当時、大和さんが体感していた『大自然の循環の中で、棉を種から育て自分や家族のためにものづくりをする充実感』。それを都心に住んでいる方達にも体感をして欲しいという思いから、3年目は藤野地区から外に向けて参加者を募集することになりました。それは更に、ワークショップ体験後に参加者が住むそれぞれの地域で、自給する棉栽培が広がっていけばいいなという思いも込められていました。

わたわたの会

わたわたの会の取り組みは大和さんの人生にとっても大きな広がりを見せます。「種を頂いて、ビジョンを持ち行動したことで、自分の役割も広がり、学びも増えた。たくさんの方が関わり参加してくれたことで大きな活動になったし、私も次にここまでやろうという思いになりました。私がやったとかではなくて、みんなが関わったことで動いていく。心が突き動かされたのかな?」それぞれ自らの意思でワークショップに集い、共に作業する中で、共感や共鳴が生まれることでチームになっていく。役割が生まれ、より大きく充実した活動になる。つくる人、使う人の顔がお互いにわかり、みんなが満足を感じる形。活動の中で「ものづくり」での生きがいも生まれます。更にそれぞれの生活、地域に広がり続いていくことで、大きな循環となりそれぞれの場所でも人の生きがいを創り出していく。 それは個人個人の沸き上がる思いが元となり大きく広がっていった循環の形でした。

根本を大切にする

わたわたの会

「私は根本を大切にしたい。自分が豊かでないと人を豊かにはできない。自分のため家族のため自分の心が豊かになるためというのが広がって、気づいたら10年後がみんなのためになっていたというように」。すべては繋がっていきます。自然の循環に配慮したものづくりは自分の食事のためであったり、暖かく心地よい住まいのためであったり、ものづくりを通して生き甲斐を感じるためだったり。自分のためを発信源に人へ、空間へ、未来へと繋がり、巡り巡って自分へと還ってきます。それは発信元である『自分自身が幸せになりたい』という思いが大元にあっての広がりです。「基本は家族。家族がいて自分がいる。子育てと仕事がうまくバランスがとれる世の中になったらいいなと思う」。

わたわたの会

忙しい現代社会、義務に心が支配されて 家族と触れ合う心の余裕が無くなってきています。子供は私たちの未来。両親が社会と繋がりながら生き生きと生活ができ、家族を幸せにできる社会。人にとって大切な存在を犠牲にすることのなく、人の幸せを育む社会になることは、子供達が成長し大人になった時、より良い社会を創り出すことにも繋がっていきます。「自分の今をどう生きるかが繋がっていく。ぼこぼこの糸でもいい、自分で紡ぐことが大事。それは自分しかできない宝。参加者の方には心の満足度を持って帰ってほしい」。気持ちがものを作り出し、形作っていきます。大和さんがワークショップで作る人の沸き上がる『思い』を大切にするのもそのため。ものづくりの根本『何のために作るのか』。そこに立ち戻り大切にすると、人として幸せな生き方、生き甲斐、社会との関わり方がみえてくるのかもしれません。

自然素材住宅のお宅訪問 光と風と共生する家

交通の利便性がよい調布の市街地、

住宅が立ち並ぶ環境にかかわらず

S邸に入った第一印象は「明るい室内」。


今回訪れたS邸でのひと時は、

人と太陽の光や風、自然素材と作り出す

穏やかな時間の流れを感じるものでした。

お宅訪問 調布樹の家

Sさんのお宅は長期優良住宅。屋根には太陽光発電「びおモジュール」と「びおソーラー」を設置。「びおソーラー」は『自然な心地よさ』を室内に取り入れるシステム。屋根上に設置してある「高性能集熱パネル」で冬場は太陽の熱を集めて、陽だまりの暖かさを室内へ取り込み、夏には日中に溜まった熱を夜間の内に放熱することで、涼夜を室内でも感じることができます。
S邸は太陽が出ている時間はどこからか日の光が入るような設計。間口が狭く奥行きのある敷地の形ですが、角度を変えながら常に日の光や風が室内に入って来ていました。

お宅訪問 調布市樹の家

「リビングを南面に広くとりたい」というのがご主人のこだわり。1階のリビングは2階のバルコニーがひさしとなり、直射日光が直接差し込まないけれど、室内は明るくなるような造り。リビングには無垢のダイニングテーブル、ウールのじゅうたんが敷いてあり、そこは陽だまりの自然素材空間になっていました。
リビングと和室の間にある階段は吹き抜けのような役割を果たしており、光と風の通り道になっています。階段の横面を縦格子に、階段の蹴込み板に光を通すアクリル板を使ってあるため、滞りなく光と風が通っていました。

お宅訪問 調布市樹の家

奥様は短期大学時代、元々あった建築の世界への興味が深まり、いつも見る雑誌は住宅関連のもの。更には、家を建てるのが結婚の条件だったくらいの強い関心を住居に持っていたそう。そんなSさん家族が家を建てる工務店を探していた時、ご近所であったトレカーサ工事の現場見学会に足を運びました。それがキッカケでお付き合いが始まります。「ここまでこだわっている工務店は見たことがなかったです。そして、設計の打ち合わせ時には、後悔してほしくないからと、ゆっくりと対話しながら進めていただきました。また、建設中の現場を見に行っても、子供たちにまで解説を交えながらちゃんと説明してくださいました」と奥様。ご主人は「我々はプロではないから、手を抜いて家を建てられてもわからない。なので、どの位信用できる会社なのかという視点でみてきたのですが、トレカーサ工事さんの親身な対応や懸命な仕事ぶりには本当に頭が下がりました。今でも御社のファンです」。

お宅訪問 調布市 樹の家

住まいに関心があった奥様、「私は災害でも強い家がほしかったんです」。自然の恵みを利用する家は災害にも強い家。エネルギーを自給できる太陽光発電を設置したのもその考えからです。災害時に発電所からの配電が止まるとライフラインは使えなくなり、途端に普通の生活はできなくなります。「本当は井戸も掘りたいのですが」とおっしゃる奥様。それは本当の意味で『家族を守る住まい』のようでした。

調布市 石州瓦

バルコニーや玄関、洗面所のタイル、表札などは奥さんの故郷から取り寄せた石州瓦の素材を利用してあります。自然の恵みや自然素材に囲まれる生活、「この家に見合ったものを買いたいから、なかなか家具が揃わない」と奥様。修理しながら長く使うことができる無垢の家具を購入したのもその考えから。「この家に住むようになってから、草花を子供たちと栽培するようになりました。来年は緑のカーテンも検討中です」。

調布市 樹の家

玄関先にはご主人の今は亡きご両親と一緒に植えた40年ものの柿木が移植されていました。
自然の恵みを取り入れ、環境とうまく付き合いながら快適に過ごすことのできるS邸の住空間。人の近くに寄り添い続くものは変化しながら人の人生とリンクしていきます。家族と自然の素材は共に生活を織り成しながら、これからも快適な生活や楽しい思い出を育んでいくのでしょう。S邸の柿木は今年も葉を茂らせ実をならせていました。その姿は新しい環境でもSさん家族と生きていくのを決めたように見えました。