vol.14

フリーペーパー花鳥風月

INTERVIEW 1

自然の中で 感じる、気がつく、考える。
自らの五感で育む『生きるための学び』 
-相川小学校  校長      中川洋太 さん


 

INTERVIEW 2

人の心を育む相模川、世代を越えて繋がる命

“厚木の川の環境を良くする会”の理事長  西井伯夫さん

 

■菜の花まつりの紹介

INTERVIEW 1 自然の中で 感じる、気がつく、考える。

カワラノギク

 

 

 

 

自らの五感で育む『生きるための学び』

 

人のを育てるのが子育て。
 

水、植物、空気…を育む自然。
 

自然界には人を育む力もあります。
 

 

カワラノギク

カワラノギク

子供は私たちの未来。

先が見えない現代のご時世、育児書がベストセラー。

それは、人を育てることに「迷い」や「不安」が

生まれているということではないでしょうか。

小学校と地域住民が協力し、

自然を通して子供の生きる力を育んでいる

厚木市相川地区を取材してきました。

厚木市立相川小学校

グリーンフラッグ 相川小学校

 不思議でした。
どうしたらこんなに希望を持ち、やる気がある子供が育つのか。
それは厚木市立相川小学校の子供達を見ていると浮かんでくる気持ちでした。
相川小学校がグリーンフラッグ(※1)取得のため審査を受けている会場に同席した際、子供の発した言葉、「グリーンフラッグが取れようが取れまいが、未来のために河川敷の環境を守ることは辞めません」。これは、自らの河川敷への愛着からくる思いで発した言葉。(グリーンフラッグとは、環境について児童・生徒が考え、学校と地域が協力して取り組んでいるという事を証明する認証です。7つのステップを実施した後、生徒による取り組みの報告と審査員による子供達へのインタビューなどが行われます。相川小学校では栽培委員会という委員会が中心となって取組み、グリーフラッグを取得しました。詳しくはグリーンフラッグ(※1)に記載)

グリーンフラッグ(※1)
現在世界50以上の国と地域で1,000万人以上の児童・生徒により取り組まれている国際的なプログラムです。
日本では特定非営利活動法人 FEE Japanが運営・実施しています。
環境について児童・生徒が考え、学校と地域が協力して行う取り組みを7つのステップで実施します。(7つのステップ:児童中心にグループをつくる・課題を決める・計画を立てる・実施と見直し・授業との連携・学校から地域へ広げる・環境宣言を決める)
学校の取り組みが一定程度の基準を満たしていることが認められると、グリーンフラッグが授与されます。相川小学校は7つのステップのプロセスで身に付く、『「子供による計画力』『問題解決の思考力』そして『行動力』を育てるため、グリーンフラッグ取得に挑戦しました。

グリーンフラッグ 相川小学校

相川小学校の児童に将来の夢は?という質問したところ「起業家です。自分が頑張れば何か起こせるから」という答え。守りに入りがちな若者が増えていると言われる中で、それとは逆に『自らの意志で何かを起こしたい』という夢をきれいな目をして話してくれました。他にも栽培委員会での積極的な意見交換、自分から進んで手を挙げて仕事を受ける児童の姿を見ることがありました。そこで感じたのは義務感ではなく、楽しそうなワクワク感。希望を持って創造する姿。『このような子供たちがいれば日本は大丈夫ではないか』と思えるほどでした。なぜこのような子供達が育つのか、その疑問を中川校長先生に尋ねました。

カワラノギク 相川小学校

相川小学校は厚木市の南部に位置する1学年1クラスの小規模小学校。校舎の東側が相模川河川敷に隣接しています。
相川小学校では、子供たちが環境に関わる機会を与えることで、自ら感じて学べるような工夫がされています。その一つとして相模川河川敷での学習があります。具体的な内容は、『一年を通して四季の変化を体感し観察する自然散策』、『絶滅危惧種の河原野菊を栽培』、『ゴミ拾い』、『河川敷マラソン』など。

相川小学校

さらに河川敷の自然保護をしている地域の方達との交流も行っています。“学び”を知識として“知る”だけではなく、実際に“場所”や“人”と触れ合い、子供たち自身が“感じる”。そういう場を提供することにより、子供たちの中で沸き上がる探求心を学びに繋げています。


■相川小学校 校長
中川洋太 さん

相川小学校に赴任して4年目。   
「地域とともにある学校」をつくるための体制整備や、
エコスクールの認証を受け環境教育に力を入れた学校経営を行っている。
 

相川小学校グリーンフラッグ

相川小学校は、文部科学省の土曜授業(※2)のモデル校に指定されています。この探究心を学びにつなげる手法は、土曜授業のプログラムにも積極的に取り入れています。
また、4年生から6年生による縦割りの班(名称:相川冒険隊)があり、その班活動は掃除、運動会、委員会、米作り、自然教室など、ほぼ毎日の展開されています。日々の班活動があることで、6年生はリーダーとしての資質を育み、下級生は上級生に学ぶ機会を得ています。

 

土曜授業(※2)
文部科学省は、「生きる力」を育むという理念のもと、学校だけではなく、ご家庭や地域など社会全体で子どもたちの教育に取り組むことが大切と考えています。その考えから、土曜日における充実した学習機会を提供する方策の一つとして設けられたのが『土曜日の授業』枠。現在はそのモデル校のみ土曜授業を実施しています。

自分が感じる、 気が付く、考える

相川小学校校長 グリーンフラッグ

「私が教育で教えたいことは、関わって自分で感じること。自然の中で、水の冷たさや吹いてくる風、虫の声。何にもしなくてもいい、ただ自分で感じてほしい。自らの心で」と中川校長先生はおっしゃいます。先生は実際に肌で感じること。子供達が五感で感じる主体性を大切に教育の場づくりをされています。

グリーンフラッグ相川小学校

「河川敷での体験は『水があって植物が育っている。植物に虫がいて、子供達は虫採りしてみたりする。鳥の声を聞きながら散策すると、そこで作業している地域の人達もいて、草木のもっと詳しい話を聞かせてくれる』という子供の感性を伴うもの。
川のすばらしさってビデオでみたら知ることはできるけど、実際に行ってみたら安らぎを覚えたりして、教室で知るのとは全然違う。そして、自然を媒介にすると色んな人やものと関わる、自然にはそんな力がある」河川敷では地域住民である“厚木の川の環境を良くする会”の方々と小学生の触れ合いが日常的にあります。“厚木の川の環境を良くする会”とは自然豊かな相模川を守るため結成されたNPO法人です。相川小学校の子供達と共に、絶滅危惧種の河原野菊を保全する活動もしています(詳しくはインタビュー2にて)。「河川敷を学校のフィールドに加えることで、草木への理科的な知識を体感の中で学び、自然を大切に守ろうとしている人達の事も知ることができる」

厚木相川小グリーンフラッグ

河川敷では地域住民である“厚木の川の環境を良くする会”の方々と小学生の触れ合いが日常的にあります。“厚木の川の環境を良くする会”とは自然豊かな相模川を守るため結成されたNPO法人です。相川小学校の子供達と共に、絶滅危惧種の河原野菊を保全する活動もしています(詳しくはインタビュー2にて)。「河川敷を学校のフィールドに加えることで、草木への理科的な知識を体感の中で学び、自然を大切に守ろうとしている人達の事も知ることができる」
河川敷で生き生きと楽しそうに活動する子供たち。実際にその好奇心・探究心にあふれる姿を見ると、子供たちの中で感性が養われ、自発的な学びが育っているのがわかります。
 

厚木相川小グリーンフラッグ

「科目を授業で学ぶことは大切なこと。だけど、強制的に学問を詰め込まれただけの子供達は『言われたらできるが、言われなきゃできない人間』になってしまう」。それは1970年代以降日本の教育現場で取り入れられていた『詰め込み型』の教育の弊害。その受け身の教育で失われたものは、自発的な創造性と持続的な学習意欲。「幼少期は自分自身が開かれていて未知の可能性がある。色んな経験をすることでその子自身の可能性が広がっていく。生き方の基礎ができる小学校時代だからこそ、自分が感じる、気が付く、考える場を大切にしたい。そのために私達相川小学校では『創・拓・遊』をキーワードにしているのです」
 

厚木相川小グリーンフラッグ

創とは創造性。拓とは開拓。遊とは遊び。自ら創造し開拓する。そして自分が開かれている幼少期に沢山の遊びをすることは、自分の未知の分野へ視野を広げる ことができる。そうすることにより、新しい分野への『学び』にも繋がり、思考にも柔軟性が生まれます。「私達大人は子供たちの本物に触れたときの嬉々とし た表情を忘れることはできない。子供たちのその表情はすごい力を持っている」大人は、子供たちが心から学ぶことへの喜びを感じている表情を見ると、人としてその思いに応えたくなります。子供の心への影響、それは子供自身に刻まれ学習意欲の源になり続けます。

大人が夢を見る

厚木相川小グリーンフラッグ

「小学校では『学び方を学んだ』としたい」
あくまで主体は子供の学習意欲。その好奇心をどのようにして広げていくか、先生達は子供たちに見本を見せます。「何でもかんでも100%先生が学んで子供に教えるのではなく、『これって面白そうだよね。それに詳しい人を連れてきたから説明を聞いて』とその道の専門家に実演してもらったりする。そのような授業をプロデュース出来るようになると、授業の幅がどんどん広がっていきます」
わからないことがあれば詳しい人に尋ねてみる。それ以外にも様々な学び方や楽しみ方を先生が子共に教えることで、子供自ら関心のあることへの学び方を学ぶことができます。

厚木相川小グリーンフラッグ

学び方を学んだ経験は、将来的に自分の好奇心や思いを抱いたものを学ぶ術となり、その教養を基に生きていくこともできます。「学ぶ方法、そのいっぱいある道を経験させてあげたい。何もない所から子供の創造力はできない。経験を積み重ね学ぶことで、子供自らの創造力も養われていく。そのためには先生方の生きてきた経験値も必要」先生方が何に関心を持ってどう学んできたか、その経験値が子供達に提示できる『学ぶ道』にもなっていきます。
先生や大人達が子供に見せられる見本は他にもあります。「大人だって夢を見ることが大事。私と同様に相川小学校の先生方にもどんな学校にしたいのか夢を語ってもらう」

相川小グリーンフラッグ

大人も夢を持ち、そのために行動する。大人にとっての『創・拓・遊』、このような姿勢は『相川小学校のタブレットの使用頻度』でも表れています。相川小学校の授業でのタブレット使用数は厚木市内小学校の中でダントツトップです。それはどうしてかと言うと、ある先生が提出した教育論文が賞を取り、学校に賞金が入ることになったのです。その賞金の使い道を先生達の投票で決めることにしました。そこで多かった要望が『タブレットを使った授業をするための機材購入』でした。機材を購入すると、タブレットは使い方が容易で便利なため、たちまち日常的な授業現場への利用頻度が増えてきました。先生たちは自らの要望で手に入った機材なので、わざわざ『タブレット学習の時間』を設けなくても先生自らの意思で授業の活用方法を考え実践していきます。

自然の危険性

厚木相川小グリーンフラッグ

川の危険性。川での遊びは怪我をしたり、時には命を落としてしまうような事故につながったりします。『危険な物には子供を近づけない』というような考え方について中川校長先生に聞いてみました。「川の危険性。『危険』という事を考えてみる。ナイフなどの刃物も使い方がわからなければ危険だけど、使い方がわかれば職業にもできる。無知という危険。現代のバーチャル社会、インターネットに繋がるゲーム機の危険性もある。ネット接続機能のついたゲーム機をコンビニに持って行けば、ネットに繋がっていける環境。親が知らない所で子供達も出会い系やアダルトサイトに繋がっていけるのです。そんな環境は危険じゃないのか?今や『危険なことを親の目が届く範囲で止めさせる』だけでは安全とは言えない状況にある。それなら、川なら川、ゲーム機だったらゲーム機を大人が知って正しい使い方を教えることが必要なんだと思う。だから『学び方を学んだ』としたい。

厚木市相川小グリーンフラッグ

川に行っちゃいけないと言うんじゃなく、川ではどんな遊びができるのかという楽しさやその方法を教え、逆に川に行けば膝までの水があれば溺れ死ぬなどの危険性も大人が教える必要がある。その危険性も知りながら、有意義に使っていく術を伝えたい」無知の世界を好奇心だけで渡っていく危うさ。子供達には危険性や有効性を自分で判断できるような、学びの経験が必要なのです。(相川小学校ではその危険性を考えて、子供達だけの川遊びを禁止しています。)

ふるさと

厚木市相川小グリーンフラッグ

相川小学校に隣接する学区である戸田小学校でも平成25年3月にグリーンフラッグを取得しています。相川小学校と戸田小学校の卒業生などが通う相川中学校でもグリーンフラッグ取得への取り組みが始まりました。相川中学校の取り組みは子供達が主導で行われています。それは子供達自身が地域の環境保護にアイデンティティーを見出し、小学校卒業後も継続して取り組んでいる証拠です。「環境問題は1年2年くらいの付け焼刃ではダメ。子供達が小さいときに自然に触れて親しみ、ここがふるさとって思えれば、こんなに汚くなったらだめだって思える」。環境保護は義務感から行うのではなく、心から願い、自らの意思で守っていくもの。自然と共に生きてきた実感が育む「意思」なんだと思いました。

INTERVIEW 2 人の心を育む相模川、世代を越えて繋がる命

厚木市相川小グリーンフラッグ

相川小学校が地域社会にも教育の場を広げることで出会う人、その一人が西井さんです。
西井さんは“厚木の川の環境を良くする会”の理事長。
“厚木の川の環境を良くする会”は沿川住民の現役引退組が集まり、
後世にかつての自然豊かな相模川を引き継ぐため、生物多様性を育む活動をしています。
相川小学校と協力し、絶滅危惧種の河原野菊などの相模川固有生物を復活させる活動や、市民が「何時でも・誰でも・気楽に・水辺の空間を楽しめる」様な場づくりもされています。
その活動への思いを伺ってきました。

自然が育む人の心

厚木市相川小グリーンフラッグ

今の子供達は心が無い。人間の大切な根本が壊されている」
それは、教育委員会青少年相談員を9年勤め、様々な子供たちと関わってきた西井さんが思う悲しい現状。「環境が人をつくり、人が環境をつくる。今の子供達をつくっているのは環境であり大人なんだ」
 子供達が置かれている今の環境、その問題点は今の環境を創り出した社会背景にありました。「私の子供の頃は川で良く友達と遊んだものだよ」
西井さんはプレ団塊の世代。プレ団塊の世代とは、戦後生まれの団塊の世代の直前である戦時中1943年(昭和18年)~1946年(昭和21年)までに生まれた世代のこと。戦時中と戦後を生きてきた方です。「私の子供時代は貧困のため親が忙しく、子供達だけで川や野原で自然を相手に遊んでいたんだよ。子供の好奇心から虫の羽をちぎってみたり、動物が自らの子供を命がけで守る姿も見てきた。その触れ合いの中で、命の尊さも学んでいったんだよね」

厚木市相川小グリーンフラッグ

自然の中は命で溢れています。草木、虫、動物…。子供は日々自然と親しみ、生命の営みを体感していました。「貧しかったから、地域の人達は助け合って子育てしてたんだよね。私が子供の頃は『子供は国の宝』と言って地域の人達に大切に育てられたものだよ。だけど今は、高度成長時代を経て、物質的に豊かになり、個人主義になったのかなぁ。地域の助け合いは無くなってきてるよね。アパートやマンションなどは隣に誰が住んでるかも知らなかったり」

厚木市相川小グリーンフラッグ

西井さんの子供時代は現代ではあまり見ない子供を叱ってくれる近所の大人がいました。それは子供への愛情からであり、西井さんも今では叱ってくれたおじさんに感謝しているとおっしゃいます。「戦後、追いつけ追い越せの競争社会になり、人を蹴落としてでも出世して、高給取りになることがステータスになっていった。今は働いてお金を稼ぐことが大人の仕事になり、両親共働き。家族の時間は減り、子供は塾へ行ったり、一人でゲーム遊び」

厚木市相川小グリーンフラッグ

高度成長時代の競争社会。その社会が生み出したのは物質的な豊かさ。そこで失われたものは、他を顧みない個人主義や地域の中にあった心の触れ合い。「私達が子供の頃は、貧困のために大人は働いていた。自分たちが食べていくために頑張ってくれていることを子供ながらに解ってたよ。今は違う。ご近所付き合いがなく、核家族の中で子育てをしている。子供を塾に行かせるためにお金を稼いだりして、自分で子育てせずに人任せにしているよね。現在の子供は大人と心で触れ合う機会が少ない。家族が崩壊しているよね」

厚木市相川小グリーンフラッグ

現代には勉学に重きを置く風潮があります。勉強ができて、偏差値の高い学校に行き、安定した就職先に就く。安定した収入で物質的に満たされた生活をすることが幸せだ、という暗黙の道順があるように感じます。子供達は、家族や大人と心で触れ合える時間が減り、勉学をするように強制される。そして、勉強をしたご褒美に親が稼いだ収入でゲームやおもちゃが与えられる。それは子供にとって本当に幸せでしょうか?子供たちは人の心をどこで育むのでしょう。

より安全で親しみやすい 河川敷をつくりたい

厚木市相川小グリーンフラッグ

西井さんが青少年相談員の時、夜間の地域パトロールで見てきたもの。「子供たちが塾へ行くと親に言って、コンビニの駐車場で友達とアイスクリームを食べてるんだよね。特に子供たちが荒れていた時代だったから、遊ぶお金を稼ぐためにテレクラやホステスとして働いている中高生もいたよ。学力も低迷していて、零点を取る子もいた。何も答案に書かないんだよね」答案に何も書かないということは学力が無いということではありません。勉強をする“気”が無いのです。「私はこの現状に危機感を持っていたから、子供が通う中学校の校長先生に直談判しに行ったよね。校長先生は子供たちの環境を改善すると言って約束してくれたよ」

厚木市相川小グリーンフラッグ

環境が人をつくる。子供を取り巻くもう一つの人的環境である父兄側にも西井さんは働きかけました。「子供に学校から一旦家に帰るよう言い聞かせてください。学校だけが悪いわけではない、親の愛情も不足しているんです」人任せになっていた子育て。心のない保育環境の中、心のないお金に依存した子供たちが彷徨っていたのです。「人を創る『環境』を改善するために、私は地域の自然環境にも目を向けたんだよ。今は危ないからと言って子供を川や自然で遊ばせない。危ないことからも学ぶことはあり、自然は色々なことを教えてくれる。私の子供の頃は、自然の中で遊びを創造した。そんな経験から創造性が養われてたものだよ」

厚木市相川小グリーンフラッグ

自然が育む心や創造性、それは人間の基礎であり、子供たちがこれから生きていく術になるものです。「そこで、私は子供たちにとって、より安全で親しみやすい河川敷環境を創りたいと思ったんだよ。工場排水や外来種などで破壊された川の環境、それを少しでも昔のような豊かな自然に戻し、生き物を育む川にしたいんだ」
その思いから、「何時でも・誰でも・気楽に・水辺の空間を楽しめる」様な河川敷の公園“ほほえみ広場”を構想しました。ほほえみ広場周辺の整備は相模大堰を創る際に地域住民への見返りとしての周辺整備で、西井さんの構想を基に地域住民と行政が相談して完成させました。“ほほえみ広場”は相川小学校の児童中心に、地域の人達が川に息づく生物と親しむ場になっています。

心が育む人の心 ~地域社会の教育力~

厚木市相川小グリーンフラッグ

家庭、地域、社会それぞれ個々の役割はあっても、繋がって廻っていきます。消費中心の家庭環境があれば、それに見合った商品が出回ります。その結果でてくるゴミなどの排泄物は、自然環境に放出されます。それが原因で環境が悪化すれば、私たちが暮らす環境も悪くなっていきます。逆を言えば、家庭や地域が良くなっていけば、社会も良くなっていく可能性を持っています。「家庭を中心に地域をつくって、市、県、社会をつくっていく。ある日、“ほほえみ広場”で子供たちが自らゴミ拾い
をしていたんだ。その子たちが『西井さんがいつも草刈をしてくれているから、自分たちでできることをしたいと思ったんだ』と言うんだ。こうやって人が人をつくっていくんじゃないか」

厚木市相川小グリーンフラッグ

心を持って人に接していると心で返してくれる。その思いが広がり地域が良くなり、市、県、社会が良くなっていく。「“ほほえみ広場”は退職後の団塊の世代のためでもある。団塊の世代は、経済は活性化させたけど家庭は崩壊させた。今その影の部分がでている。団塊の世代は会社人間で社会と関わる場所は会社だけだった人が多い。会社を退職した今、社会と関わる場は地域の公園や河川敷。健康のために河川敷沿いをウォーキングしたりしているよね。自分達が地域の人に育てられたように“ほほえみ広場”で大人が子供達と関わり、遊び方、生き方を教えて、自分達が地域から受けた恩義を次の世代に繋ぐ時ではないか」
「子育ては、育児書だけではできない、自分の心で子供の心と真正面から向き合い、大切に育まないと。環境問題も法律を創るだけではだめ、川を愛する心を創らないと」

厚木市相川小グリーンフラッグ

『子育て』や『環境問題』のバックグランドには『“命”というものを尊む人間の“心”』が関係しています。子供たちが幼児期に自然と共に生き、生かされている人の“命”を実感する経験、親や地域の大人達が子供と向き合い、モノを与えるだけではなく、心から大切に育まれた経験。そういった実感を伴う経験が自分以外の他への感謝やアイデンティティーという“人の心”を育てるのではないでしょうか。それには大人が『お金があって自分さえ、今さえよければ』という考えではなく、子供の命と心で向き合う時間をつくる必要があります。今の時代、『命を尊む心』はどれくらい育っているのでしょうか?環境破壊に歯止めがきかない現在、命を尊み大切に育む“心”が家庭にも地域社会にも求められています。

地域と学校の「融合」で生まれるもの

厚木市相川小グリーンフラッグ

「子縁」で繋がった西井さんと相川小学校。その共通する思いは子供に与える本物の環境を大切にされているところ。地域と学校が協力することで、子供たちが本物に触れる機会をつくっています。
子供は未来を創っていくのもの、『子供は国の宝』と思い、地域で大切に子供を育てるという西井さんの思い。それは、地域社会が本気で日本の未来を大切に育てるということ。しかし、今の社会は、学校、公民館や子供用の施設など子供だからといって子供だけ隔離して扱う偏向があります。本物の環境や大人の心に触れ合える機会は多くありません。もし、子供達が本物に触れることができれば、感じ取れるものは沢山あります。本物の偉大さ、本気でものづくりした人の心。それは大人が子供に継承していくべき大切なものです。

厚木市相川小グリーンフラッグ

感じ取れるものは沢山あります。本物の偉大さ、本気でものづくりした人の心。それは大人が子供に継承していくべき大切なものです。中川校長先生曰く、「保護者、地域、学校。自分たちの役割をしていれば子供は育つけど、時に一緒にやることで120%や130%の力を発揮することができる。それを「融合」と呼んでるんだけど、河原野菊の理科的な部分を学んだり、大切に守ろうとしている人の思いも知る。そうすることで、今までにない力を育てることができる。それってすごい力じゃない?」。『融合』の場は子供たちの知識を増やすだけではなく、学ぶ“心”を育てることもできます。その経験は今後の子供たちが歩む人生に大きな影響を与え、社会を変えていく原動力にもなり得ます。

厚木市相川小グリーンフラッグ

未来の命を育むこと。それは家庭だけや学校だけではなく、社会に関係します。未来の命を大切にみんなで育む。家族、地域の自然、地域の人達、その命は繋がりながら未来へ継承されていきます。『命は尊いもの』だと心で伝えていくべき大人は、今の私達自身であり、伝えていく相手は今近くにある幼い命に対してなのかもしれません。